神戸市西区の医療法人 ありせファミリー歯科 院長ブログ
医療法人社団ありせファミリー歯科

2021.04.05

倒産メーカーの処分品?【ドックベストセメント】

倒産メーカーの処分品?【ドックベストセメント】

今回は、国内メディアでもたまに取り上げられるようになった、「ドックベストセメント」または「ドッグベストセメント」について考察します。






歯科学会や歯科大学において、正規の学問の対象として取り上げられることは、これまで無かったため、ほとんどの歯科医師の先生にとっては、親しみのない治療方法だと思われます。


しかし、ウェブ検索してみると、「ドックベストセメント」を治療に取り入れている歯科医院はたくさんヒットします。





私も詳しく勉強してみようと思い、資料を探してみました。
まず、学術論文や専門書を当たってみたのですが、改めて探してみても、「ドックベストセメント」を取り上げているものは見当たりません。




ところが、Yahoo検索にかけると、
「ドッグベストセメント」で42万8000件
「ドックベストセメント」で77万6000件もヒットします。


そのため、やむをえず、今回は、ネット検索で「ドッグベストセメント」について調べてみることにしました。




まず、Wikipedia英語版を検索しましたが、残念ながら「Doc's best cement」の項目はありませんでした。

ということは、英語圏での知名度はほとんど無いようなものです。










仕方ないので、日本語Wikipediaで検索すると、こちらには「ドックズベストセメント」の項目が存在しました。



それによると、cooley&cooley社が製造しているとの記述があったため、さっそく同社をGoogle検索しました。

その結果がこちらです。
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倒産メーカーの処分品?【ドックベストセメント】

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残念ながら廃業していました。


気を取り直して、次はネット購入サイトの輸入代行企業のサイトを見てみると、





【Doc's best white coper kit】という商品がありました。




この商品写真は、日本国内のいろいろな歯科医院サイトで、
ドックベストセメント治療の説明に、ほぼ必ず使用されているものと同じです。

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倒産メーカーの処分品?【ドックベストセメント】

しかし、こちらには詳しい成分や製品説明の記載はありません。




製造元の会社名は、【Temrex】との表記となっていましたので、
今度こそは、と再びGoogle検索すると、






企業はすぐに見つかりました。
しかし、企業の商品紹介ページには、「Doc's best cement」は存在していません。



自社商品を自社サイトで紹介していないということがあるものでしょうか。









ここでも、「ドックベストセメント」は見つからなかったので、
今度は先程の正式な商品名【Doc's best white copper kit】をGoogle検索することにしてみると、、



やっと見つかりました。





企業の製品紹介ページはありませんでしたが、
FDAの認可のファックスのコピーのようなものが、
検索第一位に出てきました。










それによると、「Doc's best white copper kit」は、



①合着用セメントとして、2003年の時点で、市場に出回っている同種の他社製品と同等の性能を有する商品として、販売することをFDA(アメリカ政府内の食の安全性を管理する機関)に申請されたものである。



②銅を成分に含むらしいこと。
(ただし、詳しい成分については記載がない)



③Cooley&Cooley社が、その申請を行い、FDAの認可が降りたこと。


などが書かれています。










その日本語訳の一部の画像を添付します。

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倒産メーカーの処分品?【ドックベストセメント】

こちらを読む限り、歯の神経を残すという効果はどこにも書かれていませんでした。



また、「ドックベストセメント」というセメントがあるのではなく、「ドクズ ベスト」というシリーズの中の「コッパールーチンセメントキット」という製品のようです。


しかも、このセメントは詰め物などを歯に合着する用途として販売されています。








結論として、結局は「ドッグベストセメント」の治療法が有効なのかどうかは、分かりませんでした。












「ドッグベスト」「ドッグスベスト」「ドックベスト」などの異なる日本語表記が用いられていますが、
「Doc's best」の表記から、正解は【ドクズベスト】が正しいようです。


ドクターの略語「Doc」に複数形所有格のアポストロフィs
という意味のネーミングみたいですね。




【ドクターたちにとって最高の商品ラインナップ】という意味で、学術用語ではなく、商品名のようです。

その中に、「コッパールーチンセメントキット」というセメントがありますが、アメリカでは、歯髄保存(歯の神経を残すこと)の用途に使われているようには見られません。







それでは、なぜ、日本の(一部の)歯科医師たちの間で、「神経を取らずにのこすセメント」だという認識が広まってしまったのでしょうか。


英字の商品説明文には、「虫歯を取り残しても、それなりに接着性能が発揮される」という内容が書かれています。


拡大解釈した人が、「虫歯を一切削らないので、結果的に神経を取らずに治療できる」と誤解したまま、日本で広まってしまったのではないかと想像されます。






「虫歯を取り残しても大丈夫な接着剤」という商品説明が意味するのが、
「虫歯を取り残してても、ちゃんとくっつく接着剤」
ということだったはずが、
日本語に翻訳する際に、
「虫歯を取り残しても、ちゃんと虫歯が治ってしまう魔法のようなセメント」
と誤った解釈が広まってしまったのではないでしょうか。





日本国内において、「ドックベストセメント」を推奨している歯科医師たちの意見を見る限り、「虫歯を全て取り切らなくても、このセメントが取り残した虫歯を殺菌して、歯髄神経を保護する」と信じているように見えます。










いずれにしても、いまのところ、「ドックベストセメント」は、正式な学術論文や、専門書では全く相手にされていません。

 
それにもかかわらず、ウェブ上では、素晴らしい治療法と信じている歯科医師が大変多いようで、不思議に感じます。



















【ドックベストセメントについてのまとめ】


①2003年に、他社製品と同等の性能を有する「歯科用合着剤」として、【Cooley&Cooley社】から、FDAに申請があり、許可されている。



②その【Cooley&Cooley社】は現在、Google検索によると、廃業していて、存在しない。


③それなのに、なぜか日本国内には、数多く取り扱っている歯科医院が存在し、実際に流通している。


④ネット上には、輸入代行業者のウェブサイトが存在し、商品説明には【Temrex社】製品と説明されているが、【Temrex社】サイトには、同商品が存在していない。


⑤【Doc's best white copper kit】には、「取り残した虫歯を殺菌して、神経を取らずに残す」効果は、少なくともFDAへの申請時点では、記載がない。

商品説明として、「虫歯を取り残しても、接着力の効果がそれなりに期待できる」との記載がある。






以上が今回調べてみて判明した内容です。






ますます分からなくなりました。






☆なぜ、廃業したはずの企業の商品が日本国内の多くの歯科医師に支持されているのか。





☆なぜ、本来にはないはずの薬効があると、(一部の?)日本の歯科医師が信じているのか。






☆なぜ、製造元の企業が廃業しているのに、日本国内に商品が流通しているのか。











どちらにしても、やはり、当院での導入は見送らせていただくことにしました。







さらに詳しく調査した結果をこちらにまとめました。
興味のある方はどうぞ。
(矢印の下をクリックするとページ移動します)
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https://arise-dental.com/recruit/blog.php?id=330

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