神戸市西区の医療法人 ありせファミリー歯科 院長ブログ
医療法人社団ありせファミリー歯科

2024.03.09

【ドッグベストセメント治療とは?(まとめ)】

【ドッグベストセメント治療とは?(まとめ)】

【ドックベストセメントとは】
ドックベストセメントとは、米国のCooley & Cooley社から販売されていた歯科用リン酸亜鉛セメント(銅粉末添加)の商品名である「DOCS' best」の日本名。ドッグベストセメントとも、ドクズベストセメントとも表記されることがある。同社はすでに廃業しており、同商品も、現在では製造中止になっている。


同社廃業後は、米テムレックス社が業務を引き継ぎ、同製品の販売をになっている。日本国内でも個人輸入は可能な状態が継続していたが、令和6年中には全ての在庫が使用期限切れになる見込み。
(出典:スマイルUS「歯科材料の輸入通販」)



【ドックベストセメント治療とは】
「ドックベストセメント治療」とは、米国Cooley & Cooley社のセメントキット「ドクズベストシリーズ」の一つである「ホワイトカッパーキット」を使用して、「歯の神経の保存を試みる治療法」の一つ。
同製品の主成分であるリン酸亜鉛セメントは、本来歯髄神経を刺激するために、有髄歯(神経の残っている歯)への使用を避けるのが望ましいとされている。しかし、同治療法を採用している歯科医師たちによれば、添加された銅粉末の殺菌作用により、歯髄神経を保護できると主張がなされている。

本来の商品の用途は装着材料であるため、「神経を残す裏層材」としての目的外使用に関しては、歯科医師の間でも賛否両論がある。

また、ドックベストセメントの問題点として、
①厚労省未認可の材料であること。
②同製品を利用する治療は高額な治療費を歯科医師が要求するケースが多いこと。
③同治療法を提唱したのが、150年前のアメリカ開拓時代を舞台にした西部劇「OK牧場の決闘」に登場するガンマン&ギャンブラーの「ドッグホリデイ」であるとされている。
日本国内のドッグベストセメントの有名歯科医師も同様な紹介をしている。
(出典:歯を削らない治療室「ドックベストセメントのページ」)

④顕微鏡下の実験が行われたとの記載がWikipediaには見られるが、臨床試験が行われた痕跡はなく、またその実験データは公開されていない。
以上の事などからも、同治療法は多くの歯科医師からは懐疑的な見方をされており、ごく一部の歯科医師が取り扱う治療法に留まっている。



【ドッグベストセメント治療とは?(まとめ)】

「OK牧場の決闘」は、年配の方には大変有名な映画だそうです。ドクホリデイも戦前生まれの方々には、人気のキャラクターだそうです。
雰囲気が理解しやすいと思うので、下に映画紹介サイトのスクリーンショットを掲載させていただきます。

【ドッグベストセメント治療とは?(まとめ)】

出典「キネマ旬報WEB」









リン酸亜鉛セメントは、20世紀初頭において、充填物の装着材料としては、主流のものでした。しかし、この150年間で、ずいぶんと歯科材料分野での学問は進歩しており、リン酸亜鉛セメントよりもずっと安全で性能のよいセメントが数多く開発され、実用化されています。
私自身が歯学部の大学生時代には、歯科保存学の講義では、材料費が安いことがメリットだと教わりました。
しかし、現代では使用されることがほとんど無くなったはずの「リン酸亜鉛セメント」が、本来の用途とは全く違う目的で、「ドッグベストセメント治療」として復活したようです。倒産した企業の在庫のみを使用する治療法であるため、厚労省の認可がおりる可能性は全くなく、日本国内においては高額な保険適応外治療となってしまいます。

そのために、ただ一つのメリットだったはずの価格が、保険適応されていないために、大変な高額治療法になってしまいました。



現在でも、世界的な歯科材料の主要メーカーの1社である「GC社」から、ほぼ同等の成分である「カッパーシールセメント」が販売されていますが、ドッグベストセメント治療を行う歯科医師たちからは、見向きもされていないようです。

この「カッパーシールセメント」は、ドッグベストセメントのおよそ10分の1の値段で購入できる上に、厚労省の認可も受けています。
ドッグベストセメントと大きく異なる点は、日本語の説明書が存在することです。
こちらには、「無髄歯(神経を除去した歯)」に使うように書かれています。また、装着材料ではなく、仮装着材料と明記されています。


現代の日本に突如として、「最先端治療」としてよみがえったリン酸亜鉛セメント治療である「ドッグベストセメント治療」
しかも本来の製品の用途や効果とは全く違う治療法であり、保険適応外の高額治療。
さらには、WEB検索では、有効な治療法と信じている歯科医師がたくさん存在しています。

私にとっては、全く不可解な現象です。
しかし、ドッグベストセメントの開発会社が廃業し、引き継いだテムレックス社が管理していた在庫の有効期限が切れてしまった今となっては、今後消えゆく運命にあると予想されます。




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