神戸市西区の医療法人 ありせファミリー歯科 院長ブログ
医療法人社団ありせファミリー歯科

2021.03.22

歯医者の考える「縄文人の抜歯の理由」

歯医者の考える「縄文人の抜歯の理由」

縄文人たちは、上顎の左右「犬歯」2本を、10代半ばで抜歯していました。




何故こんなことをしたのか、考古学研究者たちは、理解に苦しんだようです。




現在では、考古学会では、「大人になるための通過儀礼」という解釈がなされているようです。
しかし、考古学者たちが、「通過儀礼」以外の理由を思いつかないというだけで、実際のところそれが真実かどうかは確かめようがありません。





私は、歯科医師として、考古学者とは違う視点で「抜歯の風習」を説明できないものかと考えてみました。






「ただ通過儀礼というだけのために、大切な歯を抜くはずがない」
誰もがそう感じるはずです。

歯医者の考える「縄文人の抜歯の理由」

近年のDNA分析の発達に伴って、縄文人たちが現代日本人の祖先集団の一つであることが証明されました。





私たちの遠いご先祖様たちが、「大した意味もなく、何千年もの間、悪くもない歯を抜歯していた」とは、私にはどうしても思えません。



私たち現代人が、縄文人たちに親近感を感じにくいのは、
【「通過儀礼」のような大した理由でもないことのために「抜歯」をしていた】
という学説の1点に集約されていると言っても過言ではありません。




「縄文時代にタイムスリップして、縄文人の暮らしを体験してみたいけど、歯を抜くのだけは嫌だ」


そう思う人も多いはずです。






今回は、遠いご先祖様たちの名誉を回復させるため、歯科医師として、考古学者とは違う視点で考察したいと思います。






成長期に人間の身長はどんどん伸びていきます。
骨が伸びて、身体のサイズが増加していきますが、身体の各部位で成長する時期が異なります。



実は、背が伸びたあとに、最後に下顎骨が成長します。


女性なら、14才から16才、
男性なら、18才から20才ころに、急に大人らしい顔つきになるのは、下顎骨が成長するからです。





縄文人たちが
①抜歯をする時期と、
②抜歯をする歯
に着目してみましょう。




【①抜歯をする時期】
縄文人が抜歯をするのは、15才から20才くらいまで。
これは、大人の歯が全て生えそろった時期で、しかも下顎骨の成長のピークの時期です。



この時期に上顎犬歯を抜歯することによって、下顎骨の下顎頭(かがくとう)という部分に、磨耗が起こりやすくなります。



そうするとどうなるのか。




⑴顔が面長になりにくい。
⑵エラが張った顔つきになりやすい。
の2つが考えられます。






【②抜歯をする歯】
考古学者の研究により、まず初めは、必ず上顎左右犬歯を抜歯することが判明しています。


犬歯、いわゆる糸切り歯ですが、
歯学では、この歯は、食べ物を噛みちぎること以外に、
【下顎の側方運動の方向を誘導する】という役割があります。

歯医者の考える「縄文人の抜歯の理由」

一般の方には理解しにくい知識なので、わかりやすく説明します。



上下の歯をギュッと噛み合わせてみて下さい。


その状態からやや噛み合わせる力を抜きながら、右か左方向に上の歯と下の歯を接触させたまま「スーッ」とすべらせてみてください。


ほとんどの方は、糸切り歯しか接触しないはずです。



多くの方は、上下の歯を接触した状態で下顎を側方に移動させるとき、犬歯のみが接触します。
(一定の割合でそうでない方もおられます。)



犬歯のこの働きにより、犬歯より後ろに位置する臼歯が上下で接触しないはずです。




実は、奥歯は側方からの圧力に弱く、それに対して歯根の最も長い犬歯は側方からの圧力に強い歯と考えられています。



犬歯は、「歯ぎしりの力から臼歯群を保護する」という役割を持っています。



もしも、犬歯が無かったら、どうなるのでしょう。
歯ぎしりの圧力が、直接臼歯にかかるため、臼歯群の異常な咬耗(こうもう=すり減ること)が起きます。

歯医者の考える「縄文人の抜歯の理由」

臼歯には、もともと生えたてのときは、山や谷のような凹凸があります。
異常な咬耗がおきれば、完全な平らな平面になります。





臼歯の凹凸がはっきりした、全くすり減っていない歯では、上下の歯の接触する面積は小さくなります。




それに対して、咬耗によって平らになった歯では、上下の歯の接触面積が非常に大きくなります。






歯科医師の立場からいえば、どちらが食事を取りやすいかは断言できませんが、
動物の皮をなめすのには、臼歯が真っ平らにすり減っている方が圧倒的に有利だろうと思われます。




「動物の皮をなめす」とは、動物の皮の裏側に付いている脂肪分などを取り除き、腐りにくい状態にする作業のことを言うそうです。
現代では、植物から作った薬品を使って行います。




「なめす」という日本語からすると、日本語を使用していた集団、おそらく縄文人たちは、動物の皮を加工する際に、口に含んで、噛んで柔らかくしたのだと想像されます。







「何のために抜歯をしたのか」をはじめに想像するのではなく、
「抜歯をすると何が起きるのか」を検証すれば、答えはハッキリしてきます。

歯医者の考える「縄文人の抜歯の理由」

ここまで読んでいただいた方は、もうお分かりだと思います。


 

縄文人たちが抜歯を行ったのは、
上顎の左右の「犬歯」を下顎骨の成長時期に抜くことで、
臼歯群の異常咬耗を発生させ、
「動物の皮をなめす」などの作業に適した歯や噛み合わせを手に入れていた。




これが、歯科医師として私がたどり着いた結論です。





さらに専門的な知識が必要になるため、今回の記事では詳しく触れませんが、【若年時に抜歯することで、下顎骨の下顎頭の変形を誘発させて、両側性平衡咬合を人工的に手に入れることもできた】と考えられます。


両側性平衡咬合に関しては、また別の記事にまとめてありますので、興味のある方は、こちらも是非ご覧ください。

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http://arise-dental.com/recruit/blog.php?id=56






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